ACOBAが応援する起業家 その2

ACOBAが応援する起業家 その2
「木の子クラブ我孫子の福田琢磨さん」

今回は、知的障害者、精神障害者の「居場所」づくり、日中活動系および居住支援、就労支援を総合的に提供するために「NPO法人木の子クラブ我孫子」を立ちあげた福田琢磨さんを紹介したいと思いますが、その内容をより深く理解して頂くために、最初に我孫子市における障害のある方(知的障害・精神障害)の現状と課題に簡単に触れておきたいと思います。

我孫子市における障害のある方の現状(第2期我孫子市障害者プランより)

我孫子市の平成29年の総人口は、平成26年に比べて約1%の減少となっておりますが、知的障害者は、1.1倍(879人)と増加しています。
そして精神障害者保健福祉手帳を持っている精神障害者の数は、1.23倍(827人)と増加。精神通院医療の利用者は、1,984人と1.1倍の増加になっています。
ちなみに認知症の認定者数は5,608人とこちらは、1.15倍の増加率になっています。
年齢構成的には、知的障害者は、18歳から40歳までが48.3%を占めており、精神障害者は40歳から64歳までが全体の57%を占めています。

我孫子市における障害のある方の生活状況・課題(第2期我孫子市障害者プランより)

知的障害者、精神障害者ともに約7割の方が自宅で家族と同居しており、同居家族の支援を受けているため、今後の「親なき後」の暮らし方が大きな課題となっています。
特に精神障害者の8割以上は、「親なき後」の暮らし方に不安を持っており、自宅で一人暮らしをするための支援、グループホームの整備、金銭管理・財産管理などを中心とした相談支援体制の確立が急務となっています。

また知的障害者、精神障害者の多くは、障害者総合支援法に定める「日中活動系サービス」即ち、一般企業への就労に必要な訓練や、一般企業で働くことの難しい人への働く場所の提供とそれを通じた訓練、自立した生活を送れるようになるための訓練や自立支援医療(精神通院医療)受けています。
そして多くの当事者は、これらの活動を継続・拡大したいと考えているため、就労に向けた支援の強化や日中活動の場の提供が重要になっています。

身体障害者、知的障害者の雇用は比較的古くから行われてきたこともあり、就労支援に関するノウハウも蓄積されており、受け入れ先である企業等での理解も深まっています。しかしながら障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わったのは平成30年4月1日と新しく、就労支援のノウハウ・企業側の理解も十分な状況とは言えません。同時期に障害雇用義務の法定雇用率、短時間労働者に関する雇用率の算定方法も変更となりました。結果、十分な就労支援が行われず、企業側の理解・準備も整っていないこともあり、アンマッチな就労となってしまい再び引きこもりになってしまうケースも多く発生しています。
事業者からのヒアリング結果(第2期我孫子市障害者プランより)

障害福祉サービスのニーズの増減については、「増えている」、「変わらない」という回答が8割以上でした。「増えている」と回答のあった障害福祉サービス等は、共同生活援助(グループホーム)」、「居宅介護(ホームヘルプ)」、「計画相談」の順でした。「一人暮らし」の支援や「親亡き後」も見据えたサービスの提供体制の整備が求められていると考えられます。

概要は以上になります。
我孫子市の障害者プランについての詳細を知りたい方は以下を参照ください。

我孫子市障害者プラン


では、福田さんが、ボランティア活動を始めたきっかけ、その後の活動やあらたにNPO法人木の子クラブ我孫子を立ち上げようと思った理由、そこをどのような場所にしたいかという思いをお聞きしていきます。

定年退職と妻の死別が重なり喪失感・深い悲しみに襲われる(ロストグリーフ)

 「定年退職と妻の死別が重なり、私は大きな喪失感・孤独感・絶望感に襲われました。すっかり塞ぎこみ引きこもり状態となった私の異変に子供たちが気づき、外に出てボランティア活動をすることを勧められました。社会福祉協議会(てとりあ)、市民活動ステーションのボランティア紹介があり、まず参加したのは「心のボランティアトゥハート」です。この団体は、市の障害福祉支援課と協力し、精神障害者への差別をなくすための啓発活動を行っています。幼少期から一緒に育てられた軽い知的障害の姉への思いもあり、心の病を抱えつつも懸命に生きている人、自分と同じような境遇にある人に出会い、立ち直ることができました。
そしてこの団体での活動を通じて、主には知的・精神障害者の就労支援事業を行っている「NPO法人自立支援ネット我孫子」(通称イエローハート)との出会いがあり、この団体での活動を開始いたしました。今回私と一緒にNPO法人を立ち上げる仲間もこの時に出会った方々です。
また自分の母の看取りをして頂いた感謝の気持ちもあり、認知症専門のグループホームでのボランティアにも参加いたしました。その施設でケアマネージャーをされている方がACOBAの会員であり、その方の紹介もありACOBAに入会いたしました。
ACOBAに入ってまず、第三者評価員、外部評価員の資格を取得し、福祉事業所の評価を行っていましたが、もっと現場にて障害者のサポートをしたい思いが生まれてきました。そのためにいきいき生活倶楽部まほろばに参加し、高齢者や障害者に対する外出支援、傾聴活動を中心に活動を行いました。またサラリーマン時代の経験を活かして高齢者向けのパソコン教室を担当しています。
まほろばのメンバー様には、ともに行ってきた活動を通じて、皆さんの考え方に刺激を受けながら激励の言葉で応援していただいております。今後も何か困ったり、相談したいことがあれば、経験豊かで実績ある仲間として、あらゆる機会に助言やアイデアをしていただけると心強く感じています。」

福祉評価事業部の詳細はこちら
いきいき生活倶楽部まほろばの詳細はこちら

今回新たにNPO法人を設立しようと思い立ったきっかけとは?

地域活動支援センターというものがあり、社会福祉や精神保健の専門家がいて、障害のある方へ創作的活動・生産活動の機会を提供することにより、社会との交流を促進し、自立した生活を支援する事業を行っています。
我孫子市が実施主体となっているので市の財政負担を減らすために、専門家の不要なB型就労継続支援(非雇用型の利用者が比較的自由に利用できる就労継続支援)事業に移行できないかという検討がなされています。
しかし私は、精神障害・発達障害・引きこもりの方が、B型就労継続支援等になじめず、また引きこもってしまう例を多く見てきました。
ですから、社会復帰への最初の一歩として、まずは居場所の提供を行い、相談支援から生活支援、家族支援、就労に向けた訓練まで、一連の流れで支援をし、就労意欲の向上と社会復帰を目指す支援が必要ではないかと考えて、日中活動系および居住支援、就労支援を総合的に提供できるサービスを実現したいと考えました。
最終目標として、精神障害者の地域生活における拠点となる施設運営を行い、施設利用者の方へ、社会復帰へ向けた自信と、自立した生活の実現へ向け、継続した支援を行っていきたいと考えています。
また地域に開かれた施設として、精神障害に関する啓発活動やボランティアの育成を積極的に実施し、誰も取り残されない・誰も排除されない社会の実現に寄与したいと考えています。
新NPO法人設立は、そのような社会を実現する最初の一歩であり、いままでのそれぞれが分断された事業者にはできなかった総合的なサービス提供者として、障害者が生活基盤を整えることのできる場所を提供、そのためのあらたな施設を湖北台に建設いたします。」

法人設立にあたってご苦労している点

 法人設立にあたり、まず最初に苦労している点は、障害福祉サービス事業を提供するためのソフト面/ハード面の法律や基準が細かすぎてまったく素人のわたくしは非常に苦労しております。
今回の設立にあたっては、ともに事業を立ち上げる仲間であるNPO法人木の子クラブ我孫子の脊古代表理事、島貫副代表理事と一緒に3人でソフト面の運営について、千葉県にある他の精神障害者施設を2~3訪問して教えていただいています。

ハード面、即ち湖北台の新しい施設の建設にあたっては、設計事務所の設計者の方が細かく県や市の関係部署に問い合わせていただき協力していただいています。
次の苦労している点は、人材難の昨今、いかにして食事、看護師、経理など経験あるスタッフを確保していくか?また今後スタッフの後継者の育成も重要と考えております。
資金面からは、事業を安定的に継続していくための運転資金として、利用者を集めること、スタッフの健康管理などにも気を使っていく必要があります。
また、生活介護サービスの利用者の制限として、障害区分の条件があり、制度が利用できない方が数名いることに対して、我孫子市の障害福祉支援課に対応方法について相談しています。

木の子クラブ我孫子は、「孤立させない最後の命綱」になるつもりです。

 今回、ともに法人を立ち上げる仲間である脊古さんが理事を務めるNPO法人自立支援ネット我孫子は、設立以来20年近く、精神障害者の生き辛さ、不安定な精神状態に寄りそって、生きていて楽しい体験を続けていける場所を提供するための活動してきました。
当施設は、この精神を引き継ぎ、利用者の身近な「居場所」として、きめ細かい支援や相談支援できる環境を提供し、孤立させない最後の命綱になるつもりで、利用者と本気で向き合い、生きてて良かったと感じられる場所にしたいと思います。
生活介護サービスの中では、具体的には以下の創作活動、生産活動を考えており、さらに利用者の適性に合った作業を考えていきたいと思います。
①パソコン事業(データ入力、フォト動画DVD制作、名刺制作、プリントシール制作)
②イベント企画販売(リメイクペットボトル雑貨、植物アレンジメント、カレーフェスティバル)
③庭園・作業所公開フェスティバル

市民の皆さまへのメッセージ

 まずは当NPO法人にて企画するイベント参加や利用者と交流していただき、利用者の病気の症状など知って頂きたいと思います。
精神障害者がひきおこした事件が報道されると偏見の目で見る人が多くなるのですが、長く支援していれば、生き辛さ、悩みを一つ一つ解決していけば、一人の人間として「生きがい」を見出し「人生楽しく」の思いを共有できると信じています。
我々の目指しているような居場所が全国に広まっていき、きめ細かい支援や相談対応ができるようになれば、利用者を孤立させることなく悲惨な事件などは減っていくと思います。

同じような立場の方が集まって互い支えあうことを「ピアサポート」といいますが、NPO法人自立支援ネット我孫子では「倶楽部バルーン」というピアサポート活動もやっています。
夕方になると不安になる人が多くなるので、月1回のナイトケアサポートとして自由参加で皆で集まり、食事会やカラオケや相談会を開いています。
また連休が続く場合、「takumahouse」と称して自宅を開放し、食事会やって楽しいイベントを開催しています。昨年は正月、5月連休、8月連休、10月の4回開催し毎回20人程度の利用者さんが参加して楽しく過ごしました。またクリスマスパーテイを別のスタッフのお家を開放していただきました。
倶楽部バルーンの会費は、年1000円ですが会員になっていただければ、4回/年ほどの小雑誌の活動報告(当事者作成)をお送りいたします。
会員以外の方であっても、食べ物の差し入れなど協力していただけると非常にありがたいです。
ご興味ある方は、是非とも連絡頂けばと思います。

NPO法人自立支援ネット我孫子
TEL:04-7100-4135 FAX:04-7100-4135
Mail:club-balloon@xmail.plala.or.jp

「障害」という文字の「害」という言葉のもつ悪いイメージから「障がい」と表記をすべきという意見があり、そのような表記を行っている自治体、団体もあります。それとは逆に「障害」とは、社会の側にあり、それが人の側にあるということを暗に認める「障がい」という言葉は使うべきでないという主張もあります。どちらが正しいと言いかねるために、本記事中では我孫子市が使っている「障害」という表記をいたしました。